骸骨の行き先は新潟か長野か、それともどこか途中で降りたのか。
休暇の残りはあと二日しかないのだ。それで目途をつけなければならない。彼は急に目を開くとぎょろりとあらぬ所を睨んだ。そして口元に不敵な笑みを浮かべると、「まずは松本だ」と呟いた。
終点の松本到着は翌朝六時だった。それまでに少し休んでおかなければならない。彼は腕を組むと再び目を閉じた。ただそれだけのことなのに、その姿には何やら獣じみた凄味が漂い始めた。まるで眠らない男といった感じがした。
何はともあれ電車はゴトゴト走っていた。今や寝静まった乗客を乗せて規則的にレールの音を響かせていた。遠くに街灯りが見え、車内アナウンスで間もなく大月に到着することが知れた。
いつの間にか眠ったらしかった。気がつくと辺りは一面の朝霧だった。その霧が白々と眩しいほど輝き、今日の快晴を約束していた。骸骨は雑木林の小さな祠で横になっていた。
雀がチュンチュンと胸や腹の辺りで啼いていた。身じろぎすると雀はばたばたと飛び立った。腕を枕代わりに組んで暫らく横になっていた。気のせいか少し頭痛がした。昨夜ずぶ濡れになったから、風邪を引いたのかも知れない。もっとも鼻水を垂らした標本というのにはお目にかかったことはないから、これも気分の問題だったのだろう。
目の前の水溜りに自分の姿が映っていた。骸骨はそれを寂し気に見つめていた。深い憂いに沈んでいた。人に失望したのか自分に絶望したのか、よくは判らなかった。希望の欠片すらなかった。
いつどこで、どんな具合にということもなく生きていることに気がついた。そしてずっと何故生まれたのか、何のために生きているのかと考え続けてきた。どんなに考えても答は出なかった。だから外へ出てみようと思ったのだ。