其の弐

伊藤医師は何喰わぬ顔で聴き終わると、素知らぬ風に問い質した。

「で、それは正真正銘の骸骨だったんだね?」

「まさかぁ、ニセ物に決まっているじゃありませんか」

ママはさも呆れたと言わんばかりに口の端を歪めた。

「あ、いや、そうだね、ハハハ。でママもそれを見たのかい?」

「ええ見ましたよ。誰の仕業か知らないけど、粋じゃありませんか」

今度は伊藤医師が口の端を歪めて笑った。

「それで、その踊りの骸骨はどうなったんだい?」

「どうって、それっきりですよ」

「それっきり? ふうん、ほかに見た人はいるのかな」

「そりゃ大勢いますよ、タクシーだって沢山並んでいたし、この辺りじゃ有名な話ですよ」

彼は気のなさそうな声で、「ふうん」と言うと欠伸をした。そしてもう一杯ウイスキーを頼むと、妙な薄笑いを浮かべながら、ゆっくりとグラスを舐め始めた。それは猫が尻尾を捕まえたネズミを玩ぶ様子に似ていた。あるいは肚に一物のある男の常として、自らの魂胆を晦ますための身振りだったのかも知れない。やがて伊藤医師は席を起つと悠然と店を出ていった。