5
ニコがいなくなって三週間ばかりがすぎたころ、村に派手な車が乗りこんできた。エゴルのバスやタクシーが独占的な営業を続けていられるほど、この村に外部の車がくることはない。
紛争が終結する前なら、軍の車に混じって記者たちを乗せた車や中継車もきたものだが、それにしてもこれほど鮮やかな黄色をしたスポーツカーが乗り入れたことはなかった。車は低いエンジン音を唸らせて村の通りに滑りこむと、食料品店の前で止まった。
おりてきたのはやせ形で背の高い、サングラスをした男だ。あたりを少し見渡してから、ドアベルを揺らして店に入った。革のジャケットを着てシャツの襟(えり)を開いた男は、身につけたものはすべて高級そうだが、一見して遊び人風だ。
入った店の狭さに呆れ返ったようにぽかんと口を開けたままレジカウンターへ近づいた。
「なあ、ちょっと聞くが、ニコラスって親父がこの村にいるだろ」
店主が予想したとおりの口の利き方だ。
「ニコラスって、ニコのことでしょうか」
「ああ、それだ。ニコさんだよ」
男は親しげにそう言ったが、ニコならここで働いていたよ、とは口が裂けても言えない気がした。精巧にできた黒い蜥蜴(とかげ)のペンダントが、喉に向かって這いあがるかのように深くはだけた胸にさがっていた。目に嵌(は)めこまれたダイヤモンドとおぼしき石がきらりと冷たく光る。
「ニコならちょっと前にこの村から突然いなくなりましたよ。おたく、もしかして何か事情を知ってる人?」
店主の問いには答えず、男は質問を重ねた。
「身内はいないのかい」
「ずっと独り者ですよ。親は早くに亡くしたし、連れ合いもいなけりゃ息子だっていませんよ」
子ども……と言うべきだった、と店主はひやりとした。男はサングラスを外して店主をにやりと見た。