テレビで紹介していた、と付け加えても駅員は思いつかない様子で、この先がすぐ旧市街だからそこで誰かにたずねてみてくれ、と一本の道を指差した。

適当に追い払われたような気もしたが、教わったとおりに道を曲がると、どこか殺風景な駅前とは一変して賑(にぎ)やかで生活感にあふれた通りが続いていた。古着屋や雑貨店が両側に軒を連ね、その間に立ち食いの飲食店や、ファストフードの店が目立つ。舗道(ほどう)の石は年代を感じさせる古いものだが、格式張った店など一軒もなく、どこも土産物店のように猥雑(わいざつ)だ。旧市街といえばたしかにそうだが、この一角を見る限り古都の情緒(じょうちょ)も若者文化というペンキの下に塗りつぶされたような気色(けしき)だ。

通りの先に小さな広場があり、露店で銀細工のアクセサリーを売る者がいた。その横にたむろした黒いギターケースを抱えた若者たちはみんな細いパンツをはき、男とも女とも見分けがつかないような恰好だ。背の高い男は伸ばした髪を後ろで束ね、目の縁を豹(ひょう)のように黒くした女は頭の両側の髪を剃(そ)りあげていた。

駅前で見かけた人々はスーツ姿でブリーフケースを抱え、誰もが先を急ぐような顔をしていたが、ちょっと入ったこの界隈ではまるでちがう種類の人間がひしめいている。村育ちのニコにとってはどちらも不思議な世界だが、異質なものが共存するこのイェンナとはいったいどんな街なのかと思う。

ニコは聖堂のことなど忘れて、迷路をさまようような感覚できょろきょろしながら歩き回った。

いつの間にか裏通りに入りこんでいた。

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次回更新は11月4日(月)、21時の予定です。

 

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