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この層から一番上までは太い土管の中をつたうような薄暗い螺旋(らせん)階段をのぼらなくてはならない。階段は内側には足をのせる幅もほとんどないので、一人ずつ、外側の壁に沿ってくるくると何回転もしながらのぼっていくのだ。ニコは小さなカーシャが一段一段を這うようにのぼるのを下から押しあげて助けてやった。
穴のような階段を抜けて上層階に出れば一度に視界が開け、まるで天上界に立つような思いがする。子どもならきっと高いところから見る景色を喜ぶだろうと、ニコはカーシャを抱きあげて、窓の外を眺めさせた。
ところがカーシャの菫色の視線は少しも外を眺めず、目の前に猫じゃらしのようにさがるカリヨンの紐ばかりに注がれていた。ニコが触らせまいとするから、なおのことカーシャはそれを掴(つか)もうと手を伸ばす。するとそのうち、彼の手は紐の一本に届き、その瞬間カンとささやかな音が鳴った。
とたん、彼ははっと目を見開き、怯(おび)えたような表情でニコと鐘とを交互に見比べたが、ニコのひげがくすりと笑うのを目にすると安心してもう一度その紐を引っ張った。
澄んだ高い音が生まれる。景色になどまるで興味を示さなかった子は、音の行方が見えるかのように首を巡らしてそれを追った。次々と生まれる音を聴き、まるで飛び立つ鳩(はと)を見送るように、カーシャは空の高いところに目を凝らしていた。