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カーシャの知能は、厳密に言えば低いというわけではない。生活においても、どのコックを回せばシャワーのお湯が出て、止めるときはどうすればよいのかもちゃんと知っている。ところが、お湯が出て、それで体を洗うのだという「通常の考え」が彼にはない。
蓮口(はすぐち)を見あげ、穴の数だけ睨(にら)んでお終(しま)いの日もあれば、嬉々として一時間もその温かな雨に打たれ続けていることもある。そこには彼の見ている彼だけの世界があるようだ。通常を押しつけようとすれば彼は激しく反発するが、堪能すれば、あるいは飽きてしまえば何も言わなくても自分からやめる。
今日のカーシャは長くなりそうだ。さっきからシャワーの音に混じって、何がおかしいのか奇声をあげて一人で笑うのが聞こえている。
ニコはカーシャが脱ぎ捨てた服を洗濯機に放りこんでスイッチを入れた。給水口から勢いよく水が噴き出し、ドラムが回転をはじめると、服に残った泥のせいで水はすぐに汚く濁(にご)った。ニコはスイッチを切り、一度排水させてからもう一度作動させた。
こんなに汚れてしまったものでも、洗えばなんとか元に戻る。ニコはくるくる回転するドラムにぼんやり目をやりながら、思いにふけった。
今日もニコは街へいった。もう何度目になるだろうか。街といっても、村の人たちが働きにいったり買い出しにいったりする隣町のことではない。もう少し遠くにある、イェンナというこの国で八番目の都市だ。