ファッションといえばそれまでだが、結いあげた黒い髪はぐっさりとほつれ、どこかしまりのない印象を与える。縁取られたきつい目、ふてくされた顔でくちゃくちゃとガムを噛みながらおりてくる。名はキーラ。理髪店の娘だ。
彼女には両親と姉が一人いたが、政府から賠償金が出た二年前、一家はそれを持っていち早くこの村を離れた。ところが一年足らずで、この妹娘だけが一人で村にひょっこり舞い戻ったのだ。
何があったのかは誰にも話さないが、出ていったころには少し引っこみ思案にすら思えた十六の娘は、すっかり変貌していた。理髪店の家に身なりの派手な若い娘が勝手に入りこんでいるというので隣の者が咎(とが)めにいってみたら、なんのことはない、そこの家の娘だったという笑えない話だ。
ここに寝泊まりして町の雑貨店へ働きにいく。交通手段はこれしかないので工場行きのバスに便乗するが、朝は遅刻ばかりするし、帰りは帰りで、わざわざ自分一人を拾うために迂回したバスをもう何度すっぽかしたことか。
乗客はみんな怒っているというのに、本人には迷惑をかけたという自覚もなく、翌朝にはまた平気な顔で乗りこんでくるのだから手に負えない。親もいなければ、噛みつかれるのを承知でわざわざ意見してやる人もなく、やりたい放題の娘は村の鼻っつまみになっている。
「キーラ、明日も乗るんなら遅れないように頼むよ。工場は始業までに入らないと困るんだ」
彼女の足が地面におりたつのを待って、エゴルはもじもじと切り出した。
【前回の記事を読む】学校が退けた午後から二時間、荒れた土地を修復する。誰の土地だとかは問わなくていい。これならやり直せるかもという希望を…
次回更新は11月1日(金)、21時の予定です。