樹間を通り過ぎるザワ! ザワ!という風に枝葉が揺れる音が時々聞こえてきます。若干、風が出てきたようです。また、子山羊の母親を呼ぶ声が山並みに「こだま」して、遠くから聞こえてきます。母親の乳をねだっているのでしょうか。

毎年行われている食害による野山羊の計画的な駆除作業によって、数が減ってきているとはいえ、まだまだ昔と変わらず色々な所で見掛け鳴き声を聞くことが多く、そして、生まれて間もない子山羊に出会うことがあります。

振り向くと、季節外れの固有種である「ムニンアオガンピ」の花が咲いています。十時四八分、世界で最後の一本となったネットで覆われたオガサワラツツジの原木位置を通過し、足下の不安定な岩の斜面を注意しながら下って、奇岩「朝立岩」に到着です。ここで座り込んで休憩とします。原木のオガサワラツツジは、昔と違って枝振りが良くなっています。

昨年は、台風の大きいのが来襲しなかったこともあって、小枝が密集状に伸びて昔のようにいつ枯れてしまうか分からないという生育状況ではありません。これから三月下旬頃から五月にかけて、たくさんの真っ白な可憐な花を咲かせることでしょう。

朝立岩について、早速、同行の戸田さんが塹壕調査の開始です。ここには、過去一度しか入ったことはないのですが、何もないことを確認しています。監視壕なのか。また、何時の日か、この朝立岩の上に登りたかったのですが、今回もその時間も無く見合わせることとします。

なお、ほのかに期待を抱いていたのですが、残念ながらツツジの花の一輪は観ることはありませんでした。当然といえば当然です。一月五日に咲いていたという話は、狂い咲きでおかしなことだったのです。

先程より、風が強くなっています。来た道の斜面から、かん高い野山羊の鳴き声が盛んに聞こえてきます。近いということもあって、また、鳴き声が風に乗って騒がしいほどに聞こえています。

正に「恥頭部」