シャルル・ダンブロワはシルヴィア・ガブリエルを伴ってプレノワールのカザルスの居城に向かおうとしていた。

アンブロワのシャルルの館は領地内のかなり北辺に位置しており、一方カザルスの居城はプレノワールの領地の南に構えられているため、彼らの距離はほんの目と鼻の先、馬を軽く走らせれば小一時間で緩やかな丘の上から早くもプレノワールの城壁が望めるほどに近かったが、この日は馬の背に揺られながらゆっくりと向かっていた。

シルヴィア・ガブリエルは例のエトルリアをゆったりと乗りこなしていた。

「まったく、あの馬とは思えんな」

馬の姿も馬上の者の姿も形(なり)良く、これではどちらが主でどちらが従者かわからんな、とシャルルは内心ひがんだ。

だがこの青年といるとシャルルはなぜか心が弾む。普段は口数が少ない方であったが、自然と饒舌(じょうぜつ)になっている自分を不思議に感じた。

年は? 両親は? 兄弟は?

あまり自分のことを喋りたがらないシルヴィア・ガブリエルを相手に、根掘り葉掘り質問攻めにしている間に、もうカザルスの居城を取り囲む広大な城壁が見えてきた。

アンブロワの城に比べればカザルスの居城は実に豪壮であった。跳ね橋を渡って城門の前まで辿り着くと遠景で眺めていたよりも遥かにこの城が堂々とした顔をしていることに気づかされる。

大きな二枚の門扉(もんぴ)には二つの異なる紋章が付けられており、王家の縁戚らしく、それらの頂には王冠のクレストが誇らしげに描かれていた。

門扉の両側には左右六体ずつの人像柱が立ち、上には高く喇叭(らっぱ)を吹き鳴らす五人の天使のレリーフが門を潜(くぐ)る者たちを見下ろしていた。

【前回の記事を読む】母との骨肉の相続争いについて、もしかしたらこの青年が何か良い打開策を示してくれるかもしれない。期待して話してみたところ…

次回更新は10月25日(金)、18時の予定です。

 

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