第二章 イヨロンド
中庭に入って目に入ってくるのが礼拝堂である。
これが領主個人の礼拝堂かと驚くような立派な造りで、規模は小さいながらも中央に薔薇窓、さらに装飾用の小塔が左右に二つ取り付けられていた。礼拝堂を支える柱の柱頭部分には数々の聖人にまつわる寓話(ぐうわ)が細かく彫られていた。
シルヴィア・ガブリエルは見るものすべてに目を見張った。
自分の生まれ育った村には、誰にも負けないほど手の込んだ細工を施す職人や、石を切り出して美しい模様にはめ込むことのできる石工がいる。
彼らがもしこのような多くの人手を使って、壮大で贅を尽くした仕事をする機会に恵まれたならどれだけ腕の振るいようがあるだろうかと夢想した。
その夢想は館の中に入ってからも続いた。
建物の美しい骨格を見せて緩やかなアーチを描く広間の内廊には等身の立像が立ち並び、そこを通る者をある者は威圧し、ある者は微笑みかけて出迎えていた。
壁には多くの絵画が飾られていたが、中でも目を惹いたのは正面の壁一面と言えるほどの大きさにかけられたタペストリーで、向かい合う一角獣と獅子を中央に、狩猟に出かけていく大勢の貴族や貴婦人の華やかな姿が見事に細密に織り込まれていた。
村の織り子たちがこのような大仕事の依頼を受ければ、彼らはどんなに嬉々(きき)としてそれらを織り上げるだろうか。小さな村の自給自足の生活の中では、彼らの技術や腕がまるで宝の持ち腐れであるように感じられた。
「カザルス殿はまことに洗練された趣味のお方だ、どうだ、この内装といい、あちらこちらに飾られた装飾品といい、実に素晴らしいであろう」
シャルルは我が事のように自慢げに両手を広げてみせた。広間の内廊を抜けるとカザルスの日常の住居へと続く回廊に出る。