第二章 イヨロンド
シャルルが何のことだと言わんばかりに驚いた声をあげたので、カザルスは慌てて取り繕った。
「いや、その、あの案は見事じゃ、名案だと……」
バルタザールはあまりの可笑(おか)しさに声を漏らしそうになったが、すんでのところで俯いて笑いを押し殺した。
「そう思うて下さいますか!」
シャルル・ダンブロワが歓喜の声をあげた。
「奇抜な案でございましたので、もしやカザルス殿のご心証を損ねはせぬかと内心びくびくでございました。いかがでございましょうか? この私の窮地、お救い頂けるでございましょうか?」
「あのイヨロンドの奥方は儂にとっても頭痛の種よ、大きな禍にならぬうちに封じ込めておくのは賛成よ、後(のち)のためだ。上納の条件についてはもう少し考えてみようと思うが……それにしても名門の領主であるそなたが、ようも思い切って誇りを捨て、儂の足元に跪(ひざまず)きに来られたものよなあ。小事を堪(こら)えて大事を成すその潔さには感服いたしたわ」
シャルルは褒められてこそばゆい思いがした。
「ところで、先ほどから気になっておるのだが、今日はまた妙に美しいご家来をお連れじゃのお?」
カザルスはやっと本題に入れた気がして内心身を乗り出す思いだった。
「は? この者でございますか?」
シャルルは唐突に尋ねられて少々面食らった振りを装った。
「この者は最近召し抱えました従者でございます。以後お見知りおきを」
シャルルは目論見通りで気分が良かった。