第二章 イヨロンド
「どう思う? バルタザール」
「はあ、なかなか面白い戦略だと。あのイヨロンドの悔しがる顔が目に浮かぶようです。誰が考えたか知りませんが、愉快でございますね」
「そうよ、愉快だ! アンブロワとの関係も、あの強欲女が表に出てくると思うとなかなか厄介であったが、これは名案だ! 死んだフィリップ・ダンブロワもあの世で笑うぞ、ざまあ見さらせ、とな」
「で、どうなさるおつもりですか、向こうの筋書き通り、というのもカザルス様にはご不満では?」
子どもの頃から傍らで過ごし、主(あるじ)の性質を知り過ぎているバルタザールが意地悪く笑う。
「まさにそこが面白うないわ。シャルルの思惑をどこかで違えてやりたいと思うのだが、この筋書き、誰が考えたものかようできとる。シャルルは儂(わし)に頭を下げることを堪忍すれば、最低限の犠牲で親父(おやじ)の土地を守れる。イヨロンドを体裁良くノエヴァに追い払い、骨肉の争いの謗(そし)りも受けぬわ。母上には実家の土地をお返しします、とな。で、その身内争いで漁夫の利を拾うのがこの儂よ。黙って拾わぬは間抜けだと言いたげな筋書きよなあ」
カザルスはいまいましげに左の拳を右の掌に打ちつけた。バルタザールは面白げに言葉をはさんだ。
「しかも、ご丁寧な追い討ちまで付け加えてありますよ」
「そう、それよ! 一番悔しいのはそこのところだ。葡萄酒から生まれる利益のうちから上納金を支払う……それはよいわ。そのあとは何だ! その利率を儂がよいように決めろだとぬかしおるわ。こやつ何者だ? 小賢(こざか)しい真似を……」