「カザルス様のご気性を、この私のようによく知る者でございましょうよ」
バルタザールは実に愉快そうに白い歯を見せて笑った。
「お前か? シャルルに入れ知恵をしたのは?」
「まさか」
バルタザールは益々笑う。
「上納金を葡萄酒の利益から五分と五分に、とでも言うてまいれば、それでは呑めぬとまずは破棄して困らせてやって、その後条件をつり上げる。これならば面白い上にあわよくば全部巻き上げることもできたものを、利率をこちらで決めろと言われて、おお、それなら上がった金を全部寄越せなどとそんな強欲で品を欠くことがこの儂の口から言えるわけがないではないか!
となれば、シャルルの下にも何がしかの利潤が残る。その見透かされたところが悔しくて、九割寄越せとでも言ってやりたいが、儂の節操もそこで見定められておるような気がして、六割、七割が限界よ。最初から捨て身できておいて、儂の気性の痛いところを突いてちゃっかり利潤をせしめおるわ。こんな悪知恵を思いつく奴はいったいどんな者よ」
カザルスは舌を鳴らした。
そんな主君の様子を見ながらバルタザールはその心のうちを茶化す。
「さすがのカザルス様もこれは一本取られましたね。ま、しかし物好きなあなた様のこと、悔しいの腹が立つのとおっしゃるよりも、そやつに会ってみたい好奇心の方が勝るのでは? そんな有能な参謀がここにではなくアンブロワ殿の下にいる、ということが一番悔しいのでございましょう?」
「おのれ何をぬかすか! どいつもこいつも儂の心を見透かしおって!」と吐き捨てながら、カザルスは満足そうな顔をした。