第二章 イヨロンド

「シャルル様はお心の正しい立派なご領主様とお見受けいたします。ですが、畏れながら謀(はかりごと)に対しては、そのお心の正しさだけでは打ち勝てませぬのでは。

賢者と賢者の話し合いであれば、ことは納まるべき所に納まるでしょうが、先ほどのお話から窺い知りますのに、失礼ながらイヨロンド様は節操をお持ちでないご様子。あの手この手の謀略をめぐらせてでも、必ずご自分の利を求められるでしょう。

手段を選ばぬ相手にはそれなりの戦い方がございます。真っ向からあたるのではなく、知力を持って戦うのです」

「それがなぜカザルス殿の臣に下るということになるのだ!」

シャルルはまだまだ納得がいかない。

「マテウス河以西のシャン・ド・リオンは王の弟君であるアンリ様のご統治ですが、近頃は近隣の小さな荘園主や弱小な諸侯たちが戦による制圧を恐れ、進んでその庇護下に入っております。

シャン・ド・リオンに限らず、この国に散らばった数多くの諸侯や増えすぎた荘園は、徐々に強大な勢力を持つ一つの諸侯の下に統合されつつあるとか。

やがてそれはマテウス河以東のこの地にも波及してまいるでしょう。北のカザルス様のプレノワール、西のゴルティエ様のコルドレイユ、そしてこのアンブロワも例外ではございません。

アンブロワはシャン・ド・リオンに統合された領地とは比較するまでもなく広大ではございますが、吸収と統合はこの先も繰り返されて、いずれはこのマテウス河以東は、王の縁戚であらせられますカザルス様によって統治されることでしょう。

時期はまだ尚早(しょうそう)ではございますが、相続によるご領地分裂の危機、カザルス様の庇護下に入られるのはあるいは得策かと存じます」

「それはどういうことだ、もう少し詳しく話してみてくれ」

シャルルはその理屈に少し動かされていた。