「このままイヨロンド様と骨肉の相続争いをなさいますと、あるいはシャルル様は亡きお父上様から正当にご相続された代々の土地を失いかねません。早期にノエヴァを切り離し、どうにかしてアンブロワの領地だけはお守り下さい」

シルヴィア・ガブリエルは切に訴えた。

「そうか、つまりこれはあの女に狙われた父上の領地を安全で手の出せぬ所に置き換える、そういうことなのだな」

「いかにも」

涼やかな目が真っ直ぐシャルルを射た。

グザヴィエ・アントワーヌ・カザルスは苦笑いした。手元にはシャルル・ダンブロワから丁重に届けられた一通の書状があった。

「バルタザール、これを読んでみよ、なかなか面白いことが書いてあるぞ」

カザルスは、バルタザール・デバロックに促した。

「あの田舎者の青二才、馬鹿正直な堅物と思うていたが……あの者の知恵ではないな、これは。あのジロンデルとかいうたか、あの城代の知恵でもなさそうだが、誰か良い参謀(さんぼう)でも雇うたか?」

カザルスの独り言を聞き流しながら書状に目を通していたバルタザールが「ほう」と声を発した。

【前回の記事を読む】昨晩、父上が夢に現れて私に告げた内容にぴったり当てはまる者との出会いがあったが…。これはただの偶然だろうか? 

次回更新は10月24日(木)、18時の予定です。

 

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