木嶋は隣にいた管理官と何やら小声で話した後に、机にあった書類を見つめ声を上げた。

「なぜ俺には連絡がないんだ! 本事件に深瀬肇が介入した以上、二十四時間で勝負がつくだろうよ。あいつなら、既に事件の筋を掴んでいる頃だろう。しかし、初動捜査では事件に直接繋がるような情報はおろか、怪しい人間の目撃情報すら上がってきていない。お前達、深瀬に先を越されるなよ」

木嶋はその場の全員に向かって発破をかけた。

「いいか、静岡県警の威信にかけて犯人を早急に逮捕する。既に十燈荘と藤市街を繋ぐ唯一のルートである藤湖トンネルは検問を設置済みだ」

このあと、藤湖トンネルだけでなく、藤市全体に検問を設ける話が出るだろうと笹井は考えた。

「では、この事件の概要を所轄から頼む」

木嶋のかけ声から捜査会議が始まり、笹井は着席する。その肩が後ろからペンで叩かれた。振り返ると、少し年上の捜査員、野沢拓郎がひそひそ声で話しかけてきた。

「笹井、お前も大変だな。お祓いでもしてきたらどうだ。呪われないように気をつけろよ」

二ヶ月の付き合いしかないが、野沢は噂好きで口が軽いタイプだともうわかっている。嫌味な性格だが、頭は切れるどこか掴みどころのない捜査員だ。しかも、趣味は都市伝説の本やら週刊誌を読み漁ることらしい。

 

【前回の記事を読む】「雑談」というタイトルの掲示板に半年程前から悪口が書かれていた被害者。自治会費を滞納しているという噓の書き込みもあり…

次回更新は10月20日(日)、21時の予定です。

 

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