アイアムハウス

静岡県警の刑事、笹井は車を運転し、再び十燈荘へと向かっていた。頭の中で、先程の捜査本部での出来事を思い返す。

静岡県警本部は、藤市から車で四十分ほど南へ走った静岡県中央駅から徒歩五分の位置にある。歴史を感じる古びた署内には、五百名を超える警察官が勤務していた。静岡県の治安を守る精鋭達である。

終わりの見えない広い廊下の先、一つの会議室の入り口には『十燈荘秋吉一家三人殺人事件・特別捜査本部』という札が貼られていた。捜査員の出入りも激しく、慌ただしい雰囲気が漂っている。

十三時になり、予定通りに会議は始まった。

「現場に行ったのは誰だ? 野沢だったか?」

ホワイトボードの前にドシンと座る捜査一課長が怒鳴り声を上げた。木嶋佳弘課長は大柄で、昨今珍しいヘビースモーカーだが、刑事としてのキャリアは確かだった。

新米刑事だった深瀬を指導したのもこの人物である。隣には管理官と刑事部長が座っていた。管理官の大中耕作はどこか居心地の悪そうな顔をしている。

「あ、すみません。俺達が行くことになってたんですが、その前に深瀬さんが行っちゃいまして。バラバラに行ったら現場を混乱させるんで深瀬さんに任せました」

「深瀬さん、今日非番だったんですが、なにせ現場があの十燈荘だから」

捜査員の間から上がった声を聞いた木嶋は、より大きな声で怒鳴る。