老話

家族写真

黒いマントの布を頭からかぶった写真屋さんは同じことを何度も注意する。居間から中の間、奥の間の板戸をすべて取り外し、床の間を背に家族全員、一張羅を着て三列に並んで緊張して待っていた。

あんちゃんの成人式を待って家族で写真を撮ろうと父ちゃんは決めていた。一家はあんちゃんで三代目になる北の大地の開拓農家だ。頑張って耕作面積を増やしてきた。家族の大事な節目に、記念の写真を一枚撮っておこうと父ちゃんは決めていたのだ。

母ちゃんは野良仕事で陽に焼けた顔に白粉をはたき、おめかしして座している。父ちゃんは紋付き袴で真ん中に、ココはその父ちゃんの膝にべったりくっついて、なぜか雛人形を抱えていた。三歳か四歳だろうか。雛人形はお内裏様だ。

写真屋の助手が被写体の家族全員を、前から横から眺め直し、目線を上げろとか、襟を直せとか細かい注意をしている。

「では一枚目いきます。まぶしくても、頑張って目をつぶらないように」

同じ注意を何度も受け、目いっぱい頑張って瞬きを止めている。と突然、ボッという大きな音と一緒に真っ白な閃光が目に飛び込んできた。

写真屋さんが右手に持っていたL字型の小さな台の上でフラッシュのマグネシウムが焚かれ、煙が立ち上り、少し薬臭いにおいが残った。

「もう一枚写しますね」

すみれ苑の駒子さんの個室、チェストの上にはセピア色の写真がスタンド式の額に収まり飾られている。写真を手に取って眺める。

みんな必死に目を開け、緊張で目が痛くなったのを駒子さんはいまも覚えている。みんなびっくりまなこで写真に納まっていた。母親だけ自信がなかったのか、目線をカメラから外し、右下を見ていた。そしてその写真が唯一駒子さんの家族全員が写った写真になってしまった。