第一章 決意

「どうだい、ラフィール、何か動きがありそうかい?」

部屋の中ほどで机に向かい本の修繕をしていた少年が鎧窓の傍(そば)にいる少年に尋ねた。

「いや、ここからじゃ何を話し合っているのかわかりゃしない」

村の中央に大きな広場があった。ここはその広場から見て正面にある建物で、村の主要な施設が入っていた。少年たちがいるのは村の図書室にあたる部屋である。

こんな閉塞(へいそく)した村だが驚くほどたくさんの本があった。

村の始祖がいわゆる学者や物知りであったので、その彼らがここで生きる子孫のためにしたためた本、その教えを受けた弟子が更に研究を重ね補足した本、あるいは東の山向こうから稀(まれ)に入ってくる旅人が持ち込んだものを写したり口述されたもの、更にはギガロッシュで不幸にも道に迷い、そこで果てた者が所持していた本、こっそりギガロッシュを抜けてあちらの世界に様子を見に行った者が持ち帰る本などでその部屋の壁は埋められていた。

本こそがこの閉ざされた村に吹き込む新しい空気で、外の世界から完全に隔絶されずに生きていくための必需品であったから、彼らはそれを得るために危険を冒してでも不定期にギガロッシュを越えるのだ。

過去には、巨岩の間から出ていくところをうっかり見つかり捕らえられた者が、遂に戻らず、おそらく火炙りになったのかもしれぬと村人を震え上がらせるような出来事もあったが、それでも彼らは時の風に触れる必要があったのだ。

「僕らはやっぱり東の異民族には馴染めないだろうね。あいつら山羊の血を飲むんだぜ!」

修繕の終わった本を書架(しょか)に戻そうと脚立(きゃたつ)に上っていたもう一人の少年が振り向いて、指で首を切る仕草を交えて言った。

馬鹿げた理由だが、確かに彼らと山向こうの民族では、その文化や生活習慣があまりにかけ離れていたのは事実だ。