第一章 決意
鎧窓から外を眺めていた少年の目は、広場に集まった大人たちを通り越してその先に向けられた。緩やかに傾斜した道が広場の先に続いていた。
少年の目はここからでは道の入口しか捉(とら)えられなかったが、彼は頭の中でその先を辿る。道なりに傾斜を下っていくとそこに大きな岩が唐突に現れて道を塞いだ。彼の背丈の何十倍かにも及ぶ岩、岩、岩。
東の山脈に対面する村の西側には、ギガロッシュと呼ばれる暗鬱(あんうつ)とした巨石群がある。
それは有史以前の浸食と隆起により出現した、高さ数十メートルにも及ぶ巨岩石が幾層にも複雑にひしめき合い林立する、恐るべき自然の造形。
少年の目はまっすぐそのそそり立つ岩の中へ入っていく。
昼なお薄暗いその内部は馬二頭がやっとすり抜けられるほどの間隔で幾層にも大岩が迫り、衝立(ついたて)のように行く手を塞ぐ。
先ほど見かけたような岩がまたふいに現れて、人はたちまち方向を見失う。古くから多くの旅人が道を失い屍(しかばね)を晒したこの地は、誰呼ぶともなく、ギガロッシュの迷宮、と名付けられた魔境である。
「ここを戻っていけばいいのに」
少年は無邪気に夢想する。
そうだ。この巨岩の間の道こそ彼らの祖先が辿ってきた道、この向こうには彼らのもといた世界があるのだ。少年のまだ見ぬ世界……。その世界と村とは、この岩の魔境によって隔てられていた。