第一章 決意

リリスは非常に優秀な人間で、特に薬草の知識に関しては、現在の村の中では右に出る者もなく、生来の好学で研究熱心な気質から有用な植物を見つけては新しい薬を作り出したりもするので、村の施療院を任され村人たちに薬を処方しているのだった。

「リリス!」

彼が建物に入るや否や待ち構えていた少年たちが図書室の扉を開けて呼び込んだ。

少年たちの相手をするほど暇なリリスではなかったが、こう好奇心丸出しの顔を三つ並べられては敵(かな)わない。リリスは扉の前で立ち止まった。

「どんな話だったの?」

村の集会には十五歳にならないと参加できない。彼らのような少年は、こうしてあとから親しい大人に事の詳細を聞くことになる。

「山向こうの事態はまださほど緊急ってものでもなさそうだな。でも、こういう局面を迎えて初めて俺たちの村が今後このままでいいのかって議論が持ち上がった、まあそういうところかな」

「どうなるの? 僕たち、どこか他へ行けるの?」

「いや、それは口々にはいろんな意見が出るけど、どれも具体的じゃない。今はこの村も申し分なく平穏だけど、将来のことを考えるとやっぱりいつかはギガロッシュを越える方法を真剣に探さなきゃいけないんだろうな」

「どうやって?」

「ファラーは何て?」

少年たちの質問は切りがない。

「その議論が始まったばかりだ。まだ何とも。すまないが、俺は今ここでお前たちと話している暇はないんだ。またあとにしてくれ」

リリスは少年たちの不服そうな顔を振り切って廊下の奥へと向かった。