第一章 決意

何を言っているのかリリスはすぐには理解できなかった。ああそうか、さっきの集会の話だな、と一人合点(がてん)した。

「うん、それはこれから議論することなんだ。様々な意見があるしな、出たいという気持ちは、たぶん誰もが持ってはいるんだろうが、現実にはとても難しい。何せここは、向こうの連中には魔物の棲む村のように伝えられているしな、迂闊(うかつ)に出てはまた酷い迫害にも遭いかねない。だから……」

「リリス!」

話を遮って青年が体を起こす。

「この村から俺たちが出ていく方法はたった一つしかない。俺はそのために一足先にここを出てその準備に行く。そう言いたかっただけだ」

リリスは呆気(あっけ)にとられて笑う。

「これはこれは、昨日ぶっ倒れあそばした時に打ち所でも悪かったかな?」

「真面目に言ってるんだ。はぐらかすなよ」

青年はそら見ろ、やっぱり言うべきじゃなかったというような、うんざり顔を見せた。

「俺たちは一人、二人と夜陰(やいん)に乗じてギガロッシュを抜け、素知らぬ顔であちらに溶け込むくらいのことはできるさ。でもなリリス、それじゃここを出ていけないまま残る者が出る。

年老いた者、年端もいかぬ者はどうすればいいんだ。出ていった者にしたって向こうでいつ出処がばれるかびくびくしながら、諸国を散り散りに流離(さすら)うようなことをしなければいけない。

この村のことを永久に秘密にしながら、俺たちの二百年をなかったことにして生きていかなければいけない。そんなふうに向こうに出ても、何の意味もないじゃないか」

リリスがそこで何か口を挟もうとしたのを、青年は聞けと制して先を続けた。

「俺は、この村の扉を開放して、みんなで堂々と外に出ていきたい。その方法でしか、俺たちはこの村から出ていけないと思う。この村の始祖たちは、その能力が優れていたためにここに追い込まれた。だが、今度はこの村の能力や技術の高さを道具として、俺たちは向こうに戻るんだ」

苛々(いらいら)と相手の話を聞きながら自分が口を挟む頃合いを待ち構えていたリリスが、やっと隙を見つける。

「お前の意見には聞き惚れるよ。だけどな、お前が忘れていることを教えてやる。ここはギガロッシュの果ての村だ。あっちの奴らは悪魔だ魔物だと恐れている。しこたまでっち上げられた謂われのない恐怖伝説で、あの岩はこてこてに塗り固められているんだぞ」

声を荒らげたリリスは窓の外の見えてもいないギガロッシュの方向を指差した。