彼らはこの村独自の発達と人間関係に何ら不都合を覚えることもなく、むしろ理想的として過ごしてきたのだった。気がつけば村の人口は四百人にも膨れあがり、黙ってこっそりと出ていける数をとうに超えてしまっていた。

「あ、話が終わったみたいだ」

鎧窓の隙間から外を見張っていた少年がそう叫ぶと、他の少年たちも作業を止めて窓辺に寄ってきた。

「リリスだ! リリスがこっちに戻ってくる」      

一人の異形の青年がこちらに向かって歩いていた。

彼は全身が隈なく白かった。髪も肌も白いばかりか、瞳にすら色素がないので血管が赤く透けて見えるのであろうか、その瞳は淡紅色に染まっていた。

血族間の交配を余儀なくされるせいか、この村では時折特殊な者が生まれることもあったが、村の将来を村全体で守ろうという考えが根付いているこの村では、生まれつきに何らかの不都合が生じた因子は先に受け継がせない、という暗黙の約束があった。

強い拘束力があるわけではなく、つまりご遠慮願う、という形でそれをあとに残さないようにしてきたのだが、そうしていてもなお、変わった因子が顔を覗かせることがあった。リリスもそうした一人なのだろう。

初めてリリスを見る者は、確かにその異形に驚くであろうが、真っ白というのは馴染めばなかなか美しく、村人は特に違和感を覚えることもなくリリスに接していた。

【前回の記事を読む】幾層にも複雑にひしめき合う巨石群。多くの旅人が道を失い屍を晒したこの地は「ギガロッシュの迷宮」と名付けられた魔境であった

次回更新は10月15日(火)、18時の予定です。

 

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