「ギガロッシュを抜けて向こうへ出ていけたらなあ、そうしたら問題は解決するのにね」

窓辺の少年が広場に目を向けたまま、先ほど夢想したことを呟く。

「出ていけないのが問題なんだよ。問題を解決するための問題の方がよほどでかい」

修繕中の少年が手を休めてうんざりだという顔をする。

「誰かが前に言ってたよ。僕らの祖先がせいぜい三、四十年ってところで黙って向こうへ戻っておいてくれたら、こんなふうに閉じこめられることもなかったのにって。居心地が良すぎて長居しすぎたのがよくなかったんだって。やっぱりそうかなぁ?」

確かに居心地はすこぶる良かった。

これはわずかな人数で始まったこの村の特別な起源に由来する。家族同然の繋がりを持つ村の中では個々の親子関係は殆ど無視されて、徒弟制度が人間関係の中心となっていた。

子どもは五歳くらいまで一括して育児院に集められて育ち、その間に様々な技能の発掘や才能を開花させる試みがなされ、それに応じて最もふさわしい親方や師匠の下(もと)に預けられた。

当然ながら自分の真の親の下へ行く場合もあれば、他人の所に託される場合もあったが、ここで結ばれるものこそがこの村の親子関係で、そうして預けられた子に、彼らは寝食をともにしながら教育を施し、早期から技を鍛え育んだ。

同じ道に興味を抱き何らかの才能を発揮する子どもに、自分の熟練の技を伝授し導く。それは効率が良いばかりでなく、大きな喜びでもあった。

鍛錬(たんれん)の中で認め合うこの後天的な絆は、骨肉の関係を超えた深い親しみを生み、それが彼らの技術を飛躍的に発展させる礎(いしずえ)となり、村に居心地の良い生活環境をもたらしたのだった。

「まあ今になればって話だろ、それも」

まさにそうなのだ。