インビジブルマンシンドローム
インビジブルマンシンドローム、透明人間症候群ともいわれている。
倦怠感や気力の低下などを訴える人もいるけれど、頭頂部から首の付け根までが見えなくなること以外の症状はほとんど見られず、本人確認に難があること以外は、日常生活に支障はない。
まだその原因がはっきりと分かっていない思春期特有の病気で、急速に進行するものの、そのほとんどが成人を迎えるまでに自然治癒する。
放課後、鈴木君がいるような気がして池へ来た。池は、青が黒に変わっていく空を映していた。かなしみを集めて水に溶いたら、きっとこんな色になるのだろうと思った。
池のほとりに座る鈴木君が、数日前に鈴木君が描いていた絵のように見えて、その頭部を透かして見える世界に、そのまま絵の具のように溶けていってしまいそうに思えた。
「かなしかった?」と私は聞いた。
鈴木君は、小さな子供に諭すようなやさしい声で、
「もうその話はしなくていいよ」と言った。
「帰らないの?」と聞くと、鈴木君は、
「帰りたくないな」と言った。
「証明したいって言ってたじゃない」と言うと、鈴木君は、
「顔がなくなったきっかけは分かってるんだ」と言った。