「『よく考えた方がいいよ』。そう信じていた人から諭された時、僕がしたかったことは、人に反対されてまでしたいことだったのか考えた。だけど、きれいさっぱり諦めてしまったら、今までの僕とは別人になると思った。僕は結局、これまで描いた絵を燃やした。燃えカスが舞い、池に沈んでいく様子を見ていたら、水面に映る僕の顔も揺れながら消えていった。あの時、僕は僕自身をここへ捨てたんだと思う」

もしかしたら鈴木君は、取り戻そうとしているのかもしれない。もう一度、今度は何があっても離さないつもりで。

すっかり池が黒く染まってしまうまで、私たちはそこで池を眺めた。月が形を変えて、ゆらゆらと水面に溶けた。

頬を撫でていく風は暖かくもなく、冷たくもなく、鈍くなっていく感覚とともに、私はうとうとして、そのうち、夢を見ているのか現実を見ているのか分からなくなった。

ぼんやりとした視界の中で、鈴木君は池の真ん中に立っていた。水を分け入ってその隣に立つと、鈴木君が泣いているのが見えた。

「顔が戻ったの?」と私は聞いた。

どういうわけか、思い出したのだなと、妙に納得したような気持ちになって、ふと、形あるかなしみという鈴木君の言葉を思い出し、

「池の底に何が沈んでいるのか、暴いてみようか」と続けた。

「何もなかったら?」

「何もなかったなら、かなしみを混ぜて夜のスープにしてしまおう」

私はそう言って、長い木の枝で池の底を撫でた。