【前回の記事を読む】何か来る…絶対的な気配。台所の方でペタ、ペタ、と床に足が張り付く音。昔ながらのガラスの引き戸に、小さな手の影が…

夏の子供と星の海

「ごめん、不自然に網がかかってたから気になって」

網に絡まりながら、見覚えのある子供がそう言った。

「こら! この間の不法侵入の子供! 俺の罠にかかるな!」

罠にかかったのが、河童ではなく子供だったことに憤りを感じて、大人げなくそう言うと、子供は、

「ごめん、ごめん」と言って頭を下げた。

「お前小学生? 宿題はどうした宿題は。人の家に上がり込んで大人をからかったり、川で遊んだりしていないで勉強しろ。将来の夢とかちゃんとあるの? 立派な大人になれないよ」

「勝手に入って悪かったよ。あんなボロ屋敷に誰かが住んでるなんて思わなくてさ」

「あ、うん」

「夏休みの自由研究で、トカゲの研究してるんだ」

「あ、そうなんだね」

「トカゲを捕まえてたら、おじさんが勝手に驚くから面白くなっちゃって。からかって悪かった。すごい形相で追いかけてくるから、思わず逃げちゃったし。おじさんは何してんの? あ、この網、おじさんの? こんな所に置いて危なくない? おじさん、片付けた方がいいんじゃない?」

「おじさん、おじさんって言うのやめてくれる? お前らにとっては、おじさんかもしれないけど、俺はまだお兄さんを諦めたくないの」

「ごめん、ごめん」

「お前、河童見たことある? 俺、今、河童捕まえようとしてるんだ」

「え? そんな当たり前に実在しているみたいな口ぶりで。おじさん、いかれてるな」

「いかれてねーわ」