そして、雨が降り出した。疲れ切った俺に追い打ちをかけるように降り始めた雨を、渇きを潤す恵みの雨だととらえ、俺は歩き続けた。峠を越え、海沿いの道に出る。行きに俺が陽気に走った道だ。
「きれいだな」
俺は、そう呟いた。
雨は上がり、辺りはすっかり暗くなっていた。雨に濡れた地面は、鏡のように外灯の光を照らしていた。夜の海に月の光が反射してキラキラと光った。夜空を真横から見たなら、きっとこんな感じだろう。星の海だ。
白いワゴン車がチラチラと眩しいライトを照らしながら、俺の横に止まった。その助手席に見知った顔が乗っている。
「おじさん、こんな所でどうしたんですか?」
車から降りたマジメが、俺に駆け寄ってくる。
「親戚の家から帰るところなんです。一緒に乗っていきますか?」
俺は、急に体の力が抜けて、その場にしゃがみこんだ。マジメは、俺を心配して、
「大丈夫ですか?」と聞いた。
俺は、少しだけ泣いた。
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