そして、雨が降り出した。疲れ切った俺に追い打ちをかけるように降り始めた雨を、渇きを潤す恵みの雨だととらえ、俺は歩き続けた。峠を越え、海沿いの道に出る。行きに俺が陽気に走った道だ。

「きれいだな」

俺は、そう呟いた。

雨は上がり、辺りはすっかり暗くなっていた。雨に濡れた地面は、鏡のように外灯の光を照らしていた。夜の海に月の光が反射してキラキラと光った。夜空を真横から見たなら、きっとこんな感じだろう。星の海だ。

白いワゴン車がチラチラと眩しいライトを照らしながら、俺の横に止まった。その助手席に見知った顔が乗っている。

「おじさん、こんな所でどうしたんですか?」

車から降りたマジメが、俺に駆け寄ってくる。

「親戚の家から帰るところなんです。一緒に乗っていきますか?」

俺は、急に体の力が抜けて、その場にしゃがみこんだ。マジメは、俺を心配して、

「大丈夫ですか?」と聞いた。

俺は、少しだけ泣いた。

  

👉『寂しがり屋の森』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】添い寝とハグで充分だったのに…イケメンセラピストは突然身体に覆い被さり、そのまま…

【注目記事】一カ月で十キロもやせ、外見がガリガリになった夫。ただ事ではないと感じ、一番先に癌を疑った。病院へ行くよう強く言った結果…