「蚊帳、破れちゃいましたね」

蚊帳は、絡まりを解こうとした際に破れてしまった。木の枝に引っかかった部分から大きく裂けている。これでは、罠としても蚊帳としても役目を果たせそうにない。

「ごめん。僕が罠にかかったせいで……」

子供が申し訳なさそうにそう言うと、マジメは、

「大丈夫だよ。僕も河童が実在するなんて思っていないんだ。ただ、おじさんが一生懸命だったから、何かしてあげたくて」と言って笑った。

次の日の昼下がり、俺は自転車を整備していた。納屋にあったものだ。埃を払い、チェーンに油をさすと、自転車は見違えるようにきれいになった。

この自転車で、網を買いにいく。マジメは大丈夫だと言って笑っていたけれど、本当は自分の作った罠が壊れてしまって、悲しかったはずだ。

目的地は、三駅ほど離れた場所にあるホームセンター。ここへ引っ越して来る前は十駅ほどの距離を自転車で通勤していた。余裕だ。夕方までには帰ってこれるだろう。そう思っていた俺は、早々に後悔した。

行きだけで三時間かかった。地獄のような峠を越え、延々と続く道をひたすら走り、目的地のホームセンターに到着した俺は、田舎の駅区間距離を見誤った自分を責めた。しかし、今更後悔しても遅い。来たからには、帰らなければならない。

Tシャツがペッタリと背中に張り付く。夕方になっても強い日差しは衰えない。疲労がピークに達しようとしていた時、更に悲劇が訪れた。自転車に異変を感じる。やたらペダルが重い。疲れのせいかと思っていたけれど妙な音もする。

「げっ」

自転車の前輪がいつの間にかパンクをしてしまったようで、見た目からも分かるほどに空気が抜けてしまっていた。

「おいおいおい、こんな所で……」

よりによって人気のない峠でのトラブル。通り過ぎる車も少なく、周りは森。助けを求めようにも、民家すらない。俺は仕方なく、自転車を引いて歩いた。

「大丈夫。雨の中、傘をささずに歩くよりはマシだ」