だがなかなか思うように上達せず、ある日「がんばっている割には上手くならないのですが」と嘆いたら「速度が遅いだけです、確実に上達していますよ」と慰められた。
アンサンブルで人前に立つ時は毎回私がMCを務める。これは最初の二人音楽会から続いている。子どもの頃、人前で話すこともできない内弁慶の私が、まさか司会を得意とするなんて、と自分でも驚いている。
夫がグループの代表を務め、私が庶務全般を引き受け、アンサンブルとして地域で活躍し続けて九年目に夫が亡くなった。入院一週間前まで、高齢者施設を訪問していた夫のパワーには感服である。
代表という柱がなくなり、活動の継続が危ぶまれたが、残されたメンバーで何とか再出発できた。十周年記念音楽会も華やかに楽しく開催することができた。この活動はこれから先も続くはず、と思っていた矢先、コロナ禍に巻き込まれてしまった。
練習もできない、訪問演奏にも出かけられない。メンバーも減り、残ったメンバー同士も人間関係がギスギスして、傷つけあうことになってしまった。代表の座を夫から受け継いでいた私は、「解散」という苦渋の決断をした。このアンサンブルは十一年目にして消えた。
でも、私の生活の中でクラリネットなしは考えられないようになっていた。解散を決めたその日だけ落ち込んだが、次の日には新しい挑戦を考え、動き出していた。
一人ででも音楽を届ける活動がしたい、そのためには、自分自身の演奏レベルを上げることだ、と再び個人レッスンを受ける手続きをしたのである。
今でもクラリネットは実のところあまり上手くはない。が、楽しい。レッスンを受けている先生には「人前で演奏するなら楽しいだけではダメ。聴いてくださる方の時間をいただくのだから、もっと自分に厳しくなってください」といつも言われている。
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