第一話 クラリネット狂詩曲

「ポーッ」音が出た!

楽器も、衝動買いした「初心者用セット」からレベルアップ。今使用しているのは、母の形見ともいえるもので、大事にしている。

母が九十七歳で亡くなった時に、幾許かのお金を残してくれた。記憶にも記念にも残るものに使おうと思った時、いいクラリネットを買おうと思いついたのである。レッスンに通っている先生に選定していただき、今も大切に吹いている。

独学を始めてすぐに、夫がとんでもないことを言い出した。プロ級の腕を持つ夫のアコーディオンと、二人音楽会をやろうと言う。

ドレミも満足に吹けないのに、その年の十二月にクリスマスコンサートを開きたい、お客は住んでいるシニアマンションの住人。まず目標を設定して、それに向かって努力する、ということが割と二人とも好きだった。

ゼロからスタートして、何ヶ月後かには人前演奏デビューをしたわけだが、私のクラリネットの出来栄えはボロボロ。そんなに簡単に演奏できるような楽器ではない。しかし「人前でやる」という楽しさにこの時目覚めてしまった。

また、夫婦で同じ目的に向かって進む「連帯感」も感じ、この後はひたすら二人で演奏の道を進むことになった。

最初は二人だけで演奏を楽しんでいたが、その後夫の提案でS市の音楽好きの仲間を集めることにした。この呼びかけには多くの人が賛同してくれ「音楽を楽しむ会」は順調に船出した。

ハーモニカからチェロまで統一性のない楽器集団は、それでも一年くらいは続いただろうか。いうまでもなく夫のアコーディオンと私のクラリネットは主力メンバーである。