第一話 クラリネット狂詩曲
「ポーッ」音が出た!
自分自身では今までとは違う形で、聴く人がクラリネットの演奏を楽しんでくれたらいいと思って、現在は次のようなことをやっている。
一つ目は、朗読とクラリネットのコラボでお話の世界を創り上げる活動。朗読が上手い友人と気が合いなんとなく始めたものだが、これが思いの外好評で私たちも気に入っている。
まず絵本を探す。二人で読み合って、文をカットしたり話の切れ目を探したりして、物語を再構成する。同時にどこにどんな音楽や音を入れるかも検討する。クラリネットは、人間の声に一番近い楽器といわれているせいか、朗読の声とよくマッチする。
クラリネットが担当する部分が決まると、音探しをする。レッスンに使っている教本の練習曲の一部だったり、有名なエチュードから切り取ったり、場合によってはオリジナルのメロディーも考える。
二人で試行錯誤して、長い曲にしたり、高低や速さを変えることもある。この、二人で創り上げていく過程がとても楽しい。一話一話、世の中に二つとないお話ができていくことは、私たちの宝物が増えていくことである。この分野を何と呼ぶのか分からないが、一つのパフォーマンスといえるだろう。
二つ目は、フルートのAさんとのデュオ。以前アンサンブル活動のメンバーだったので、もう随分長い付き合いとなる。二人で、小さなお子さんと親御さんのために「音楽届け隊」と名づけて演奏している。今のところ不定期活動ではあるが、これも楽しみにしているものである。
三つ目は、違う楽器三人が集まっての活動。月二回のペースで練習し、発表の場も増えてきている。懐かしい昭和の名曲などを演奏し、高齢者や地域の人々に喜んでもらっている。これが前にやっていたアンサンブル活動の精神を一番受け継いでいると思うので、今後も続けていきたい。
六十の時思いつきで始めたクラリネットが、こんなにも長くこんなにも深く、私の生活に入り込み、夫亡き後も私を支えてくれるとは当時は思いもしなかった。
「挑戦」は何歳からでもいい。まずやってみる、一歩を踏み出さなければ何も始まらない。「やれる時に、やれることを」が私のモットーである。
音楽は聴く人の心を癒してくれるが、演奏する側にも癒しを与えてくれるものだと思う。出来ることなら、今よりはもう少し上手く吹けるようになりたいけれど……。