その四 イノシシさんとの夜の攻防

カラスさんは、ぎんちゃんの判断を伝えるために、すぐに森の中に飛んで行きました。しかし、森の中に入りイノシシさんを見付けて、カラスさんは驚きました。

柴犬さんは、すっかりイノシシさんの親子と仲良くなってしまっています。ぎんちゃんの決断の話を柴犬さんとイノシシさんに伝えないで、このままにしておこうかとカラスさんは思ってしまいました。

カラスさんに気付いたイノシシさんが問い掛けます。

「カラスさんよ、昨日の話はどうなったかね。期待はしないが聞きたいね」

イノシシさんが、すごく回答に困る口振りで聞いてきます。カラスさんは、イノシシさんがこのままで良いと思っているのではないかと気付きます。子供のイノシシさんもいるし、遊び相手に良いのかもしれないのでしょう。これは知恵比べの遣(や)り取りになりました。

黙っているカラスさんに、イノシシさんが言い寄ります。

「どうしたいと言っているのかね、ぎんちゃんは」

やはり世渡り上手なカラスさんですから、上手く切り抜けます。 

「イノシシさんと一緒に、家の裏庭に夕方来てくださいと言ってた。会いたいって。少し近付いて、様子を見てから判断していいよと言ってたよ。イノシシさんの判断を入れてね」

イノシシさんは、少し意外な回答に面食らったようでした。カラスさんは、とんでもない出任せを言ったものだと、自分でも驚いています。仲を取り持つおいらも大変だよ、と言っているかのようです。

今度は、逆にカラスさんが言い寄ります。

「どうしますかね。ぎんちゃんには、裏庭で火を焚いて明るくしておいてくれれば、その近くまで降りて行くと言っておきますよ。今夜がいいかな」

カラスさんの言いっぷりに押されて、しぶしぶイノシシさんも頷(うなず)きます。

「分かった。今夜、焚火(たきび)の明かりを目印に近付いてみるよ」

カラスさんは慌てて引き返して、ぎんちゃんに、今度はお願いすることを急ぎました。

「ぎんちゃん、大変だよ。イノシシさんが柴犬さんを連れて、今夜裏山から降りて来るって言ってたよ。暗くて分からないから、焚火の明かりを用意してだって。それを目印に近付くって。大丈夫かな」

ぎんちゃんは、カラスさんの説明が良く理解できません。柴犬さんを飼いますという話なのに、この回答では、私が柴犬さんを捕獲するように思われているのではないか。喧嘩を仕掛けたような攻防戦になるのではないか、と心配になりました。

「カラスさんは、私の話を正しく柴犬さん、イノシシさんに伝えたかい。なんか、喧嘩しに降りて来るように思えるけど」

カラスさんはまずいと思いながら、自分でも、何でこんな食い違いになったのか混乱しています。

ますます、カラスさんは余計なことを付け加えます。

「様子見しながら近付くから大丈夫だよ。イノシシさんの子供がいるから、注意深いだけだよ」

ぎんちゃんは、何か分からないことでいっぱいだけど、夜を待つことにしました。

その晩、ぎんちゃんは、焚火をして、裏庭に椅子を置いて座って待っています。

山から薄暗い闇の中に動く動物が見えます。イノシシさんが、子供を引き連れています。そこに柴犬さんも交じっているようです。