摩訶不思議なストゥーパに、またしても魅せられた。友人は土産店で小さなタルチョを買い、自分の部屋に飾ると意気込んでいた。ポトスとタルチョの部屋。まあ、それも悪くないか。一瞬、友人の部屋のその後を想像してしまった。
ボダナートでは、目の前で初めて『五体投地』を見た。友人から詳しい説明が入る。五体投地とは、一回一回地面にひれ伏し、両手・両膝・額(五体)を地に付けて祈りながら進む礼拝の仕方のこと。こうして巡礼する人たちは、実に一〇万回くらいの五体投地礼をめざすという。気が遠くなるほど過酷な旅だ。
かつて、サン・ピエトロ大聖堂で両手を大きく広げてひざまずく信者の姿に見とれてしまった私たち。場所も宗教も違うけれど、きっと根底にあるものは同じ。信仰するってすごいことなのだ。人間から、信じられないくらいのエネルギーを引き出す。そんな姿を目の当たりにして、これぞチベット仏教の中心地といわれる所以に納得し、改めてボダナートの魅力を実感した。
プジャを求めて
私は、ボダナートのゴンパ(僧院)で毎日午後三時半頃から行われるプジャという礼拝の音楽に興味があった。どうしても聴いてみたいので、手当たり次第ゴンパを巡ることにした。時間が決まっているため、小走りでゴンパに近づいては耳を澄ます。しかし、なかなか音楽は聴こえてこない。
諦めかけた頃、ものすごい低音のラッパ系の音が聴こえてきた。「これだ!」と叫んで、音のする方をめざして二人で猛ダッシュ。どうも二階から音がする。ゴンパの入口に立っていた少年僧に「入ってもいい?」と聞くと、どうぞと手招きして案内してくれた。
わくわくしながら上がってみると、長大なラッパと雅楽の楽太鼓のような台座に吊された太鼓、シンバルのような楽器などが見えた。そして今は、読経の声が響いている。
ところが、あっという間に演奏が終わってしまった。プジャはもっと長いはず。これはプジャではないかもしれない。そう思い、さらに別のゴンパを探すため、大急ぎで階段を駆け下りた。
「なかなか見つからないね」「今日はプジャのない日なのかなあ」と話しながら歩いていると、「ワン・ミルク・プリーズ?」というかわいい声がした。目を向けると、小学校低学年くらいの男の子がすがるような目つきでミルクをねだっている。
【前回の記事を読む】ネパールの代表的な楽器、サーランギー。どうしても欲しくて本物のサーランギーを探し回っていたところ、ある青年と出会い…