お婆は、そう言うと何か深い思いに耽っているように見えた。思いがけないお婆の話にユージンは我を忘れて、さらにお婆に尋ねた。

「それはどういうことだ。四天王の剣とは一体どんな剣だ?」

ユージンが興味深そうに聞くと、白髪のお婆が語彙を強めるように言った。

「それは持国(じこく)、増頂(ぞうちょう)、多聞(たもん)、そして毘沙門(びしゃもん)の四つの守護神の力をあわせ持つという剣の事だ」お婆は続けた。

「おまえの村に小さな古寺がある。わかるか? その寺の中に天竺から来たという苦行の修行僧が伝えた曼荼羅(マンダーラ)が祀ってある。その曼荼羅に記されているのがこの四天王じゃ」

確かに古寺の中にある曼荼羅らしきものをユージンは見たことがあるが、それに何が記されているのかなどと今迄考えたこともない。

「持国とは国を治める神。増長とは国を豊かにする神。多聞とは世間の民の心を見抜く神。毘沙門とは国を攻める者から民を守る神のことだ。その四つの力をこの剣は呼び起こすことができると言われてきた。ゴータマはこの宇宙を貫く不変の法を悟った。その結果、自らアバターの力を備えた覚者となった。四天王はゴータマが自らの力で呼び起こすことのできる宇宙に存在する神通力だと言われておる」

お婆は思い出すように続けた。

「仏陀はそのアバターの力をこの剣の中に吹き込んだと言われている。アバターとよばれる者は千年に一人この世に現れるらしい。それも世の中が乱れ、不幸な世が続く時にアバターが降臨し、世の中を正すと聞いている」

お婆はユージンの剣の鍔(つば)を目を細め丹念に見入りながら、少々驚いたような表情で声を強めて言った。

「間違いなくお前の剣の鍔には四天王が彫られておる。四天王の剣に違いない」