第一話 ジュピターと不思議の剣
(その五)
ユージンがそう言って先にテーブルについた。弟と妹も椅子によじ登って座った。三人だけの食事だ。いや、ジュピター、タイガー、フレイジャーの三匹も一緒だ。テーブルの上にある大きなサワードウ・ブレッドを見て、ラニーが聞いた。
「お兄ちゃん、このブレッドはどうしたの」
「ジュピターとお兄ちゃんが朝、森の中に入ってお婆からもらってきた」
ユージンがジュピターを見ながら答えた。
「森のお婆?」
ラニーが目をこすりながら怪訝そうに聞いた。
「二人ともよく聞くんだ」
ユージンがラニーとリチャードの瞳を覗き込むように語りかけた。
「これからわがままを言わず、我慢してお兄ちゃんの言うことを聞けるかい」
そう言って、二人を見つめ、少し考えながら二人を諭すように続けた。
「お前たちも知っているように、母上が村を襲った山賊達に連れていかれた。だからこれから食事は自分たちで準備しなければいけない。山羊の乳搾りも、畑仕事も、みんなで力をあわせてやらないといけないんだ」
二人はうつむいたまま、頷いている。そして、リチャードが顔をあげ、口を開いた。
「ずうっと、母上はいないの? 戻って来ないの?」
それを聞くと、ラニーは昨夜の恐怖の出来事を思い出したのか、下を向いて涙をこらえ小さな肩を震わせていた。それにつられてリチャードも今にも泣きそうな顔になった。二人の肩に優しく手をかけると、ユージンが静かに語りかけた。
「大丈夫。きっと戻ってくるさ…。というより僕たちが母上を探して必ず救い出すんだ。いいかい、母上は必ず生きている。今日の朝、森のお婆のところに行ってそう確信した。心配しなくても大丈夫だ」
そう言うと二人は顔をあげてユージンを見つめた。ラニーの目には大きな涙が一杯たまっていた。