「トムは両親を殺されたのだよ…。彼の気持ちがわかるかい? それでも僕たちと一緒に母上を探しに行ってくれるんだ。お前たちが悲しんでいてどうするんだ。なあ、そうだろ。ジュピター」
ユージンはジュピターの目をみてそう語りかけた。彼の語る表情をじっと見ていたジュピターは、ユージンの呼びかけに応じるかのように、二人に近づいていくと、彼等の気落ちに寄り添うように身体を寄せて、優しく小さな二人の弟妹の頬を舐めた。
そうすると、今度はタイガーはリチャードに、そして、フレイジャーはラニーにすり寄ってきて尾を振った。ラニーがフレイジャーを抱き上げるとフレイジャーはラニーの頬を流れる涙をペロペロと舐めた。
「さあ、今日はみんなでトムを助けてあげよう」
ユージンがそう言うと、ラニーとリチャードが頷いた。
「今日、トムは父上と母上のためのお墓をつくると言っていた。皆で手伝ってあげよう」
ユージンは台所に掛けてあった大皿を取り、二人にスープを優しく入れてやった。そしてユージンは搾(しぼ)りたての山羊のミルクの入ったバケツにコップを入れ、一杯、二杯と汲み上げて小さな二つの容器にいれると、それをタイガーとフレイジャーの頭を撫ぜながら、口元に置いてやった。
タイガーとフレイジャーは小さな尾を振りながら体を震わせてぺちゃぺちゃと容器の中のミルクを無心に飲んだ。ジュピターの前にもミルクがいっぱい入った大きな容器を置いた。
するとすぐにタイガーとフレイジャーがジュピターの容器にも頭を突っ込んできた。二匹は育ちざかりの子犬達だ。その様子をユージンは笑顔で眺めた。
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