第一話  ジュピターと不思議の剣

(その四)

小屋の外に出ると水車がゆっくりとまわる「ギーギー」という音が耳に入ってきた。元来た道のほうには、かすかに朝日が差し込んでいた。

「来た道を戻ればいいのじゃが、そう簡単に戻れる道じゃない。道案内をつけてやろう」お婆はそう言って、山猫のほうを向いて「モーリン」と呼びかけた。

すると、小屋の隅に潜んでいた山猫が耳を立てて起き上がると、のそりのそりとお婆の足元にやってきた。

彼女はその「モーリン」という山猫を自分の前に呼び寄せて言った。

「モーリン、この客人を村に戻れる道まで案内してやってくれ」

そう言われると、モーリンは恐る恐るジュピターの様子をうかがいながら、村に戻る道のほうへゆっくりと歩き出した。

鬱蒼とした森の中をモーリンの後についてしばらく歩くと、やがて道が三つに分かれた地点に着いた。すると山猫の「モーリン」は一番右の細い道の方向を示して止まった。

どうやら、この道を行けば村に戻れるようだ。村からお婆の小屋に来た時は、逆方向から来たせいか、ユージン達は道がこんなところで三つに分かれているとは思ってもみなかった。

道案内を終えるとモーリンは素早く飛ぶように走り去り、森の中に消えていった。モーリンが立ち去るとざわめいていた森の精達の気配も同時に消えてなくなった。

ユージンは、分かれ道に立っていた一本の木の枝を折り、「これは次からの道しるべだ」と言ってジュピターに目配せをした。おそらくジュピターは道しるべなど要らぬだろうが、ユージンとトムにとってはそういうわけにはいかない。

山猫に案内された道をしばらく歩いていると次第に霧が晴れて明るくなってきた。そして少しすると、森の外に出ることが出来た。そこから元来た道を辿っていくと簡単に村にたどり着くことが出来た。村を襲った夜盗達も、さすがにこの森に入ってきたような気配はなかった。

(その五)

ユージンとジュピターが家に戻ると、朝の太陽がだいぶ高くなって天空に輝いていた。家の中はシンとしていて、リチャードとラニーがまだぐっすりと寝ていた。

ユージンがジュピターの背中に背負わせた袋を降ろしてブレッドを食卓の木のテーブルの上に並べると、タイガーとフレイジャーが尻尾を振って駆け寄ってきた。

ユージンは裏庭に出ると、小屋の壁に沿って積んであった薪を持って入ってきた。そして薪を囲炉裏の残り火の上に重ねた。しばらくすると囲炉裏の火は勢いを増し、炉にかけてあった鍋から湯気が立ちはじめた。

鍋には昨夜のスープが残っていた。

鶏肉と野菜を入れたスープはヨランダが作り置きしておいたスープだ。いつも飲んでいた母のスープとは違った味がしたが、おいしかった。

「母は無事でいるのだろうか…」

スープをすすりながら、祈るような気持ちでユージンは母を想った。

「ミルクを用意しよう」