ユージンは今度は小さなバケツを持って小屋続きに建っている納屋に向かった。納屋で飼っている山羊から乳を搾りとるためだ。いつも母はユージンに山羊の乳搾り役をさせていたので、彼が一番なれていた仕事で要領もいい。

ユージンの後にタイガーとフレイジャーが尾を振ってついてきた。手際よく三匹の山羊から乳を搾り取り、それをバケツに入れた。タイガーとフレイジャーは山羊の乳房をぺろぺろと舐めた。

彼は搾りたてのミルクを家のテーブルの真ん中に置いた。これで朝食の準備が出来た。食卓に並んだ朝食。ここまではいつもの朝と同じだ。

しかし、今日は何かが違う。いつもの朝のように温かい母親の笑顔と優しい声がないからだ。

「これからどうなるのだろう?」

母の作ったスープやブレッドはもう食べられないかも…とユージンは思った。

今まで朝食の心配などしたことがなかった。

朝寝床から起きると、食卓には母が用意してくれた朝食が待っていた。食卓を準備する母親の気配は家を明るくし、いつも温かく優しかった。

その母がいない。まるで、家の中から生気がなくなったみたいな気がした。朝起きると、いつも笑顔で母が迎えてくれた。そして楽しい朝餉が待っていた。

子犬のタイガーもフレイジャーも元気よく、母の用意した餌をテーブルの横で食べた。今日の朝はそういう朝とは違っていた。二人の兄妹とジュピター、そしてタイガーもフレイジャーも、誰もがそう感じていた。

いつも母はユージンに言っていた。

「お前の弟と妹のことは、お兄ちゃんであるお前が見てやるんだよ」と。その言葉どおりに、今日は自分が朝食を準備した。彼の頬に涙がこぼれ落ちた。

「これからは自分が弟と妹のことをしてやらねばならない…」母のいない椅子を見ながら、そう思っていた。

ジュピターがユージンの流す涙を見つめて、察したのか足元に身体をこすり付けてきた。

やがてリチャードとラニーが目をこすりながら起きてきた。

「母上は」と言いかけて口を噤んだ。食卓には大好きな母はいない。

「心配するな。皆で母上を探しに行こう」

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