第一話  ジュピターと不思議の剣

(その三)

「何だろう。もしかすると、これが森の精かもしれない」

そう思いながら、ユージンはジュピターの後に続いた。

ジュピターは別に警戒する様子も意に介することもなくふだんのように前に進んでいった。森の精もジュピターは気にならないようだ。蒼く輝く目と、とき折みせる鋭い牙、その精悍な相貌はまるで森を支配する王者のようだ。

「ジュピターは不思議な犬だ」

改めてユージンはそう思った。

森の中は薄暗い闇に閉じ込められているようで気味が悪い。無数に分かれた道は深い緑に覆われていて、その先に何があるのかまったく見当がつかなかった。

来た跡を振り返るとまったく見たことのない別の景色が広がるようで、本当にそこを通ってきたのかどうかもわかり難かった。

確かに、戻る道を誤ると二度と森の中から出ることはできないと思われた。そればかりか森のどの位置に自分がいるかを、知る術もないように思えた。

彼らの行く手には薄い靄がかかっており、数歩歩くごとに靄は濃くなっていく。その中をジュピターは迷うことなく進んでいく。ジュピターは自分がどこにいるのかよくわかっているようだ。

不思議なことにジュピターの進む道だけが、歩調に合わせて靄が消え、視界が明るくなっていった。やはりジュピターは普通の犬ではないのだろう。

「ホウレン犬とこの森とはいったいどんな関係があるのだろう」

そんなことを考えながらユージンが歩を進め、その後をトムが続いた。

しばらくすると、少しずつ廻りが明るくなり目の前に小さな湖が広がってきた。深い緑色をした湖面には薄い霧がかかり不気味なほど静かで神秘さを漂わせている。