よく見ると、小さな明かりの漏れた小屋が奥まった湖面の畔にひっそりとして建っていた。小屋の周りには小さな野原があって真ん中に井戸のようなものが見える。
「あれがお婆の小屋に違いない」
そう思いながら彼らは小屋の方に近づいていった。
よく見ると小屋には水車らしきものがついている。奥の森からは、小さな音を立てて流れる小川が流れて、その水車をゆっくりと動かしていた。透き通った水は冷たそうで水車には氷がついている。
水車を回した水はそのまま水飛沫を飛ばしながら湖に流れ込んでいた。そこは湖というよりも小さな池に近かった。
お婆の小屋からさらに奥に広がる水面の向こうをみると滝が流れ落ちているのが見えた。池の周りは鬱蒼として薄暗く、濃い緑と高く伸びた木々に覆われていた。
滝の落ちる水面だけが白いしぶきを上げて異様に目立っている。滝の奥はもっと奥深いどこかの世界へつながっているように見えた。
(その四)
時々この池に棲んでいる魚が跳ねる。その度、付近の静寂を破るようにポチャンという音が響いた。
「白髪のお婆は小屋にいるのだろうか…」
ユージンとジュピターが廻りの様子を伺うようにして小屋の扉の方に近づいた。大木から切り出したと思われる分厚くて頑丈な板の扉を恐る恐る叩くとしばらくしてドアを押し開け、お婆が顔を出した。
お婆の横で虎のような山猫が用心深い目でこちらを威嚇している。そしてかすかな唸り声を出していた。
ジュピターがその山猫のほうを睨むとネコは静かに山小屋の片隅にゆっくりと引き下がった。
ジュピターの蒼く輝く眼光は威力があり、山猫を不思議な力でねじ伏せていた。白髪のお婆は、笑顔で迎えてくれた。