「でも、わたくし、お兄さまをお助けしたくて。わたくしだって、十二歳とはいえ、王族の一人ですわ」

乗馬服を着た長い髪の少女は、臆せずそう言った。

「エリス。君の気持ちはうれしいが、どんな危険があるかわからないのだよ」

「わたくし、自分の身は自分で守れますわ。これをマスターしましたの」

エリスは、胸のペンダントを兄に見せた。エメラルドグリーンの天然石のまわりに金色の縁取りが施されたものだ。

「催眠術、か」

「レイギッガアの人たちは理屈っぽくなって、おかげで催眠術にもかかりにくくなりましたけど、地球の人たちはレイギッガアより百年は遅れていそうですわね? まだ単細胞で、催眠術にもかかりやすいと思いますわ」

「うーん。……確かに使えそうだが……どうかな? 僕は君の身が心配だ」

「大丈夫ですわ。危なくなったら、空に舞い上がればよろしいんですもの」エリスは事もなげに言った。

「ほら、ご覧になって。新しい情報が流れてきましたわ。これからわたくしたちがすべきことは『日本』という名の国の状況を知ること。そして日本人に化けること、ですわね」

「やれやれ、君の勝ちだよ、エリス。それじゃ、王女エリスにも、力を貸してもらおうか」

ガイとエリスは、モニターに集中した。銀河系航空宇宙局から、次々と日本に関する情報が送られてくる。

「まず呼び名を変えたほうがよさそうだね。僕の名前は、ガイ・竜興・レイギッガア。でもガイは日本人には似合わないな。ミドルネームの竜興と呼んでもらったほうが日本人的だろう。そして、よくある苗字が、佐藤、鈴木……」

「鈴木がよろしいわ、お兄さま。鈴の実る木だなんて、ステキだわ」

「……エリスには完敗だね。じゃあ、君は鈴木千鶴。僕は鈴木竜興」二人は顔を見合わせた。

「……おっと、最後の情報が入った。ええと、あの土くれは、道路を作るために捨てた余分な土砂。そして、おお、渡りに船の情報だ。工事現場で働く常駐の医師と通いの警部を募っている」

「お兄さまのキャリアは超一流だからすぐ雇ってもらえるわ。レイギッガアでは、たとえ王族でも働かざる者食うべからずがモットーですから」