第一章 忠と義と誉と 文禄五年(一五九六)~正保二年(一六四五)

仕官

小十郎は、遠くを見つめるような目でしばし語ったのち、ふと我に返った。

「おっと、話が逸れたな。失敬。とにかく我が伊達家は今、動くに動けぬ殿をお支えいたすため、一人でも多く才に長けた者がほしい。

殿も常々仰せじゃ。他家に仕えた者でも、町人でも商人でも、誰か優れた者はおらぬかと。例えば大内勘解由(かげゆ)殿(大内定綱(さだつな))、存じておるか」

「二本松家、蘆名家に仕えたあの大内様、伊達の殿様を再三にわたり裏切った……」

「ははは、そうじゃ。勘解由殿は昔、若かりし頃の殿を家来衆の面前で愚弄するわ、挙句の果てに、仕えるように見せかけて裏切り、戦(いくさ)になるわで、殿に散々煮え湯を飲ませたものじゃ。

『勘解由! 彼奴(きゃつ)は幾ら八つ裂きにしても、し足りないわっ!』と、昔の殿は大層お怒りでござったが、伊達家に仕えた今は、殿からも『家中でも一、二を争う忠義者じゃ』と讃えられておる。

勘解由殿お得意の権謀術数で、諸大名の家中の者と誼(よしみ)を通じ、豊臣の家中にまで『草(くさ)』を放ち、内情を探らせておる。太閤に睨まれている今、これが大層伊達家の助けになっておるのだ」

「勘解由殿はこう仰せじゃ。

『儂は殿に心底惚れ申したのだ。殿と刃を交えたからこそ分かる。殿ほどの器量傑(すぐ)るる大名は、この日の本、どこを探してもおられぬ』

『伊達家こそ我が生涯最後の奉公先。殿のために命を賭(と)す』。

連日張り切っておられる」