「あの大内様が、そこまでの忠義、そこまでのお働きを……」

「肥後殿、そなたの気概、数多の苦難に打ち勝つその力さえあれば、勘解由殿にも負けぬ、家中で幾らでも存分な働きができよう。伊達家のために力を貸してくれるな」

「ははっ! この肥後、粉骨砕身、急度(きっと)片倉様のご恩に報いまする」

「そは重畳(ちょうじょう)1。この小十郎、肥後殿のこれからの働き、大いに期待しておるぞ……ああ、忘れておった。ときに肥後殿、京の都は初めてか?」

「はっ、初めてでございます。あまりの広さ、きらびやかさ。田舎者のそれがしには右も左も分からず……」

「ははは。国に帰るまでまだ日があろう。召し抱えにあたり、殿からの御下知が下るまで、今しばらく時がかかる。

しばらくはゆるりと、都見物でもしていかれるが良い。路銀が入用(いりよう)なら儂が用立てる。我が家中の者に遠慮なく申されよ」

「ははっ! 有難き仕合せにございます!」

伊達屋敷を辞した二人は、小十郎の勧めのままに路銀を受け取り、伏見から京へ足を向けることとしたが、京の左京まで、北へおよそ二里半。

日は西の空にとっぷりと傾いていたことから、この日は伏見で一泊し、翌日改めて京の町へ向かうこととした。

「父上……片倉様とは、何と懐の深い、慈悲深いお方でございましょう」

「そうさのう。父も片倉様と初めてお目通りが叶い、懐の深さに驚いた。人の上に立ち、家中をまとめる武将はかくあるべきじゃな。

文を交わしてきたとは申せ、お目通りが初めてな気がせぬ。まるで幾度もお会いしたかのようじゃ。不思議なことじゃが、懐かしささええる」