「はっ、初めてでございます。あまりの広さ、きらびやかさ。田舎者のそれがしには右も左も分からず……」

「ははは。国に帰るまでまだ日があろう。召し抱えにあたり、殿からの御下知が下るまで、今しばらく時がかかる。しばらくはゆるりと、都見物でもしていかれるが良い。路銀が入用(いりよう)なら儂が用立てる。我が家中の者に遠慮なく申されよ」

「ははっ! 有難き仕合せにございます!」

伊達屋敷を辞した二人は、小十郎の勧めのままに路銀を受け取り、伏見から京へ足を向けることとしたが、京の左京まで、北へおよそ二里半。日は西の空にとっぷりと傾いていたことから、この日は伏見で一泊し、翌日改めて京の町へ向かうこととした。

「父上……片倉様とは、何と懐の深い、慈悲深いお方でございましょう」

「そうさのう。父も片倉様と初めてお目通りが叶い、懐の深さに驚いた。人の上に立ち、家中をまとめる武将はかくあるべきじゃな。

文を交わしてきたとは申せ、お目通りが初めてな気がせぬ。まるで幾度もお会いしたかのようじゃ。不思議なことじゃが、懐かしささえ覚える」

「これぞ伊達者と名高い伊達のお殿様にして、片倉様の如き家臣あり。仕官のし甲斐(がい)がある家と思います、父上」

「おぬしの申すとおりじゃ。聞いたか三右衛門。片倉様は、伊達の殿様の申されよう、三河守様への苦言、豊臣家に『草』を放つ話まで……初めて会(お)うた、浪散の身の我らにする話ではない。

それだけ我らに信を置いて下され、忌憚なく思うところを話された。葛西旧臣の我ら、所詮は他所者のはず。それをここまで快く、伊達家に迎えようとなされているのだ」