「無理ですね。私が調べたのでは、とてももたないという結論でした。そして、あの型材はアルミの薄さが見えるのですよ。壁のタイルは特注で焼いてもらったものですから、それなり重みのある笠木でないと、スカイラインのメリハリがつきません」
「分かりました。調べてご連絡させて下さい」
「ところで、ジョイント等にシール材は使えないのですが、それは可能ですか」
「オープンジョイントということですね。それは、大丈夫です。私にアイディアがあります。ラフスケッチでよければ、この後ファックスさせて頂きます」
電話が終わると、すぐさま伊藤に電話した。
「伊藤さん、大山主幹から正式採用のお電話を頂きました。そして笠木もアルミ鋳物を考えて頂いているようでした」と、報告した。
伊藤は喜んで、よかったよかったと何度も言った。電話の向こうで、黒縁眼鏡の奥の細い眼をもっと細くして喜んでいる顔が浮かんで見えた。
そして、伊藤はこうも言った。
「もうPRは要らないと思います。前山建築事務所で採用されたアルミ鋳物です、と言うだけで充分です」
今度上京したときは森山さんも一緒に食事でもしましょう、と約束して報告を終えた。
森山兄弟にも報告、お礼を言った。
こうして、松葉は東京での営業の足掛かりを掴んだ。
【前回の記事を読む】知人の弟の紹介で新進気鋭の建築家との打ち合わせに同行。初対面でサンプル提供の依頼を受ける
次回更新は8月20日(火)、8時の予定です。