第2章 アルミ鋳物の営業開始

出会い

そして、1週間後、松葉は東京駅で伊藤と落ち合い、前山設計事務所に一緒に向かった。

大山主幹はニコニコしながら、「約束通りでしたね。わざわざ持ってきて頂いて、たいへんでしたね」

「いや、どうしても先生のご感想を直接伺いたくて持って上がりました」

「ありがとうございます。早速、見せて頂きますか」

大山主幹は、そう言ってサンプルを手にした。

鋭い目つきでサンプルを見ていた大山主幹が、天井の電気にサンプルをかざすと、「ウッ、陰をさしていますね」と、一言。

完璧を期して造った筈のサンプルに、指摘が入って驚いた松葉は、下から覗き込んで「しまった」ヤスリの傷だ。

「先生、申し訳ございません。仕上げのとき使ったヤスリの傷です」

「この製品は、天井に付きますからね。照明の影響を受けますので注意しなければいけません。形は申し分ないですね。思った以上にハードな表現が出ていますね。問題は仕上げの傷ですね。製品を上から見たのでは、分からない傷ですが、下から見ても分からないような仕上げができますか」

「できます。先生のご指摘を参考に、下から検査して完璧を期します」

「分かりました。価格は幾らぐらいですか」

「平米単価、工事込みで6万9千円ぐらいです」

「そうですか。7万円ですね。検討しましょう。今日は、遠いところありがとうございました」