第3章 貸し渋り
手形割引拒否
経理部長の佐久が青い顔をして、社長室に入ってきた。
社長の松葉は、打合せテーブルに座り、新製品のサンプルを見ながら常務取締役の竹之下忠雄と打合せをしていた。
「社長、ご報告に上がりましたが、よろしいでしょうか」
佐久は呟くように小声で尋ねた。
「どうしたのだ。何かあったのか、顔色が悪いが」と、松葉が聞くと、
「先ほど、鹿児島第一銀行に資金繰り表を持って行きましたら、支店長から、今後の割引はできないと言われました」
佐久は困り果てたように背を丸くして言った。
松葉は一瞬、何だと! 融資撤回の話の返事もないのに、割引を拒否する、けしからん、納得できん!と大声で言いたかったが、融資撤回の話は、まだ誰にも知らせていなかったので、信用不安が起きてはまずい、と思い口を噤(つぐ)んだ。
それを聞いた竹之下は、大きな声で怒鳴った。
「それで、お前は何と言ったのだ」
佐久はキョトンとした顔をして、竹之下を見ていた。
「お前は何も言わなかったのか、と聞いているのだ!」
竹之下の迫力に、佐久は、いや別に、というのがやっとだった。
「お前、それでも部長か! それでは、お前は単なるメッセンジャーじゃないか。言われたことを社長に伝えるだけなら、新入社員でもできるワイ! 理由を聞いてこい」
竹之下の剣幕に、佐久はすごすごと出て行った。
竹之下は、部下を叱り切ることのできる最近では珍しい男だ。
松葉は、彼をいつも頼もしく思っていた。
「社長、相変わらずですね。あいつに銀行折衝なんか任せていられませんよ。社長! 外村さんにお願いしたらどうですか」
竹之下は真剣な顔つきで、松葉に迫るようにして言った。
竹之下は松葉工業に中卒で入社して、今年で48年目を迎える。俗にいう叩き上げで常務までのし上がって来た男だ。