工場を振出しに、配送出荷などの下積みが長かったが、営業に配属になると、水を得た魚のように生き生きと活躍し出した、と松葉が大学生の頃、会長がよく松葉に言い聞かせていた。

竹之下は、会長と幼い頃の境遇が似ていたこともあってか、会長は竹之下を殊の外可愛がっているのが松葉にも良く分かった。

竹之下は、持ち前の快活さも手伝って、実績を積み上げてきたようだ。数字を出せない、実績を出せない、口ばかりの男を極端に嫌った。

得意先の評判は、他の営業マンの比ではなかった。

松葉は、あるとき得意先を1人で訪ねたとき、評判の良さの一端を知った。

その得意先曰く、

「竹之下さんは、夜昼ない人ですよ。部品が足りないと言うとは夜中でも持ってきてくれます。現場と図面が違ってしまっているのですぐ直してくれ、と現場からわがままを言われても、文句一つ言わずすぐ対応してくれます。助かっています、いや、助けられています」

なるほどそうか、いつも滅私奉公なのだなぁ。

竹之下の経験に裏打ちされた助言に、松葉も幾度となく助けられた。

「竹之下君、実はな、鹿児島第一銀行は会社のことを相当詳しいところまで知っているようなのだ」

「詳しいところまで知っている? 社長、どういうことですか」

「関東工場のことだよ。設備がうまく稼働していない、ということも知っているみたいだ。そのうち、話さなければならないと思ってはいたが、今はその時期でないと思っていた。必要以上に刺激して、危機感を持たれてもかなわんからな」

「そんなことを、社長にも相談なく銀行に話したのがいるのですか。まさか、あの佐久じゃないでしょうね」

「いや、佐久じゃないよ。佐久は俺に相談なく、そんなことができる男じゃない。佐久は間違いなく会社思いの男だ」

松葉は、自分に確認するように言った。

「それじゃ誰ですか。銀行と接点のある者ですよね」