第3章 貸し渋り
手形割引拒否
その町には産業という産業はなく、多くの人が都城市に働きにきていた。
「そうでしたか。彼が関東工場の企画書を作ったときは、さすが銀行マンだな、と思いましたよ。でも、あとで聞いたことですけどね、銀行には、模範企画書があって、それに適合しているかチェックするだけでよいようになっているそうですよ。模範企画書に沿って作っただけですよ。たいした頭は要らないそうです」
「そうかもしれん。チェックリストに沿っていればよい、というようにはなっているのだろう」
「奴はそれしかできない男だったかもしれませんね」
「そうだね。企画書を作っただけだったね。考えてみると、何ら企画を計画に移し、そして実行する段になっても、傍観者のスタイルを崩さなかったなぁ」
「奴はスパイではないですか。けしからん。許せませんよ。いや絶対許せない。全く裏切り行為ですよ。工場ではみんな必死に頑張っているこの最中に」
「まぁ、まぁ、そんなに竹之下、怒るな」
「いや、許せません。社長が許しても、私が許せません」
「竹之下、誰も許したとは言ってないよ」
「それじゃ、奴を消しましょう」
「消す?」
「そうです。消すのです。殺(や)るしかない、と思います」
「どのようにして殺すつもりか」
「殺し屋を使いましょう」
竹之下は真剣だ。
「殺し屋? そんなのがどこにいるのか。ヤクザにでもお願いするのか」
「社長、あれだけスリランカに行ってて、知らなかったのですか」
「スリランカにいるとでもいうのか」