「本部決定済みです。私どもではどうしようもありません、としか言いませんでした」
佐久は申し訳なさそうに、ボソボソと呟くように言った。
佐久にとって、これが精一杯だろうと松葉は思って、これ以上聞くのをやめた。
「分かった。ご苦労さん。昼飯でもゆっくり食べてくれ」
頭にきた松葉は、敢えて労をねぎらうかのように佐久に言った。
この前の、運転資金は出せそうにないという話はどうなったのだろう。
そのことは、支店長も古賀にも佐久にも言っていないようだ。
矢継ぎ早に、できない、できない、と言ってきているが、何を考えているのだろう。
これは、今は誰にも言えない。社員の動揺を来すことになっては困る。自分の胸に仕舞い込むことにした。
佐久と入れ替わるようにして、竹之下が入ってきた。
「社長、佐久は何と言っていましたか」
「割引は融資だ、と言ったそうだ。本部決定済みだ、とも言ったそうだ」
「何ですか。あの銀行がそんな分かったような、尤もらしいことをよく言えたものですね。言えた義理ですか。今まで預金、預金と、目標額に届かない、何とかしてくれ、と何度となく頼み込んできたくせに。自分の都合の良いときばかり利用しやがって! 社長、どうされます?」
「食事をしてからでも、行ってみようと思っているところだ」
「社長、私も同行させて下さい」
「うん、いいよ」
「アポを取っておきましょうか」
「いや、いいよ。突然行こう。その方がこっちの怒りが通じるだろう」
「分かりました。1時に玄関に車を回しておきます」
「いや、向こうに1時に着くように行こう」
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次回更新は8月22日(木)、8時の予定です。